ぜんぜん知らない人でも、ちょっと車いすを押してあげる、ということが日常的にもっとあってもいいのではないかと思います。少しの坂道だったり、でこぼこの踏切だったり、そもそも付き添ってる人が高齢の奥様だったりすれば、その場にいる若い人の力が助けになるからです。「押しましょうか?」と言いたいけど、万が一怪我をさせてしまったら大変だし、と迷った経験がある人もいるでしょう。そこで、「(屋外で)車いすを押す」という介助に限定して、その注意点を示したいと思います。
転落
最も起こりうる、最も危険な事故が車いすからの転落です。ほんのわずかな段差でも、前輪がつっかえて急に止まってしまうことで、車いすに乗る人が前にずり落ちてしまいます。上がる段差に限らず、側溝の蓋の隙間や踏切の線路の隙間に前輪が落ちることでも、車いすは突然停止し、転落が起こり得ます。
車いすの前輪は小さく、路面の凹凸に対してとても敏感です。ベビーカーや荷物の台車についている車輪と同じくらいの大きさです。それをわかっていれば、車いすも同じように扱えると思うのですが、車いすは後輪が大きく、押す人からは後輪しか見えないために、前輪の小ささを意識しにくいのが問題だと思います。
ですからまずは、車いすの前輪が小さいということを意識し、台車を押すような感覚で押すといいと思います。台車を押していて荷物が落ちてしまうようなときは、車いすから人が落ちてしまうときです。これを防ぐためにはやはり、前方の地面をよく見ながら進み、凹凸があれば前輪を浮かせて回避するのが基本です。あるいは後ろ向けに進む(車いすを引く)と、車輪を上げなくても凹凸を越えられることがあります。踏切をわたるときや砂利道を進むときなどは、後進が有効です。
車いすの安全ベルトをおなかのあたりに巻いている人がいて、転落防止にとてもいいと思うのですが、つけてる人は多くない印象で、つけていても上着やひざ掛けなどにかくれて見えないことが多いです。つけておられないものとして注意して押すべきだと思います。
足が落ちる
足を乗せるところから足が落ちてしまうことがあります。その状態で前後に進むと足が挟まり、危険です。足が落ちてしまう人は、戻してもまた落ちてしまうし、落ちることがない人は最後まで落ちないという両極のように思います。ですから、発進する前にかならず足元を一度見て、落ちそうな感じがないか確認してください。押している間は、足元は見えません。落ちてしまう人とわかった場合は、途中何度も足元を覗き込んで、落ちたら戻すを繰り返します。
手足が何かにこする
幅の狭いところを通るときには、手が車いすからはみ出さないよう、またエレベーターなど狭いところでは、足のつま先が壁にあたらないように気をつけます。足先はそうとう覗きこまないと見えません。それから屋内の場合は逆に、車いすの前の角(足をのせるところ)を何かにあてて傷をつけてしまうこともあります。狭いところを直角に曲がったり、転回する場合はとくに注意が必要です。
車輪に何かが巻き込まれる
尿を排出するチューブや、酸素を吸入する管をつけてる場合、それらは十分な長さがありますので、どこかでたわんでいます。また安全ベルトや衣服の一部が垂れ下がっていることもあります。これらが車輪に巻き込まれないように確認してください。
まとめ
まとめますと、車いすを押すときには、発進する前にまず、足先まで全体をぐるっと確認する。押してる間は前方の地面の状態をよく見る。台車の荷物を落とさないような感覚で進む。という感じです。そして、事故はだいたい焦っているときに起こります。雨がかかる少しの距離を、急いで通過しようとするときなどが危険です。常にゆっくり押すことを心がけましょう。
最後に、話をお声掛けの時点に戻します。知らない人に車いすを触られるのはいやという人もいるでしょうし、外出時の安全がヘルパーさんに委ねられている場合は、第三者の手出しを断られることもあるでしょう。そしたら車いすは押さずに、ドアを開けたり荷物を持ったり、傘を差しかけてあげることもできます。また電動車いすの場合、踏切を渡る時に横について歩くというだけでも、助けになると思います。相手が望む介助や望まない介助は、人によって、状況によってさまざまですが、まずは「(車いすを)押しましょうか?」と声をかけてみるといいと思います。